12/07/19 定額補修分担金特約について

建物賃貸借契約に関する特約については,重要な最高裁判例が相次ぎ,通常損耗負担特約,敷引特約,更新料特約の各問題について結論が出されました。
最高裁の判断がまだなされていない特約としては,定額補修分担金特約,礼金特約があります。
今回は定額補修分担金特約についてこれまでの経緯を追ってみましょう。

定額補修分担金とは,通常損耗や経年変化の補修費用として,賃借人が契約時に一定額を支払うという特約です。
このような特約が考案された背景には,通常損耗負担特約に関する以下の最高裁判例があるものと思われます。

【最高裁H17.12.16判決 抜粋】
「賃借人に・・・通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書で明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。」

最高裁は上記のように特約が契約書に具体的に明記されていれば通常損耗を賃借人に負担させる特約も有効であると判示しましたが,当該事件ではかなり具体的な負担区分表があったにも関わらず,「具体的に明記されていない」と認定し,特約の存在を否定しました。

つまり,特約が「具体的に明記されている」と認定されるには相当高いハードルがあると考えなければなりません。
そこで通常損耗の費用負担を賃借人に求めたい賃貸人側は,特約が無効とされるリスクを回避するため,「定額補修分担金特約」という新たな作戦を考えたのだと思われます。

定額補修分担金特約に関しては,これまでに無効と判示する下級審裁判例が多数出ていますが(大阪高裁H22.2.24他),まだ最高裁の判断は出ていません。
ただし敷引特約に関する以下の最高裁判決に照らすと,今後最高裁で有効と判断される可能性は十分あると思われます。

【最高裁H23.3.24判決 要旨】
「敷引特約は,信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできないが,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる損耗や経年により自然に生ずる損耗の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものであるときは,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって消費者契約法10条により無効となる。
(当該事件では)敷引金の額が賃料月額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていること,賃借人が,上記賃貸借契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等の一時金を支払う義務を負っていないことなど判示の事実関係の下では,上記敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず,消費者契約法10条により無効であるということはできない。」

つまり,最高裁は,退去時の貸室の状態にかかわらず,入居年数によって敷金から一定の額を差し引く特約=通常損耗等の補修費を賃借人に負担させる特約も,敷引金額が高額に過ぎなければ原則有効であると判断したのです。
それならば,契約当初にあらかじめ通常損耗等の補修費を一定額で賃借人に負担させるという定額補修分担金特約も,分担金額が高額にすぎなければ有効と判断される可能性が十分あると思われます。

ただし,敷引金は入居年数によって金額が増減するのが普通ですが,定額補修分担金は契約当初に支払うものですから,入居年数にかかわらず同額を負担させることになります。
最高裁は「敷引金が高額に過ぎるかどうか」の判断基準の一つとして「通常損耗・経年変化の補修費用として通常想定される額」を挙げていますが,入居年数によって金額を変動させなければ「通常想定される額」が幅の広い,雑な想定になることは避けられません。
従って,定額補修分担金の場合には補修費用の想定額を低く設定しなければ,無効と判断されるリスクが高いのではないかと思われます。

敷引金に関し最高裁の上記判例が出てから,下級審で「高額に過ぎるかどうか」「特段の事情があるかどうか」について裁判例が徐々に出てきています。
今後の判例の集積によって,敷引金額,定額補修分担金額の設定基準が明らかになっていくことが期待されます。

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