相続放棄と遺留分放棄

 新聞を読んでいたら,「構成員が70歳以上の世帯の4分の1は金融資産が0,金融資産が3000万円以上の世帯は全体の16%」という記事がありました。
 高齢世帯が金融資産の大半を保有しているとか,高齢世帯の消費動向が経済を動かすとか,大相続時代の幕開けなどと盛んに言われていますが,実際には高齢世帯にも容赦なく格差が広がっているようです。


 昨年まで相談件数の多かった債務整理案件が一段落し,最近は故人の債務に関する相談が多くなっています。
 相続財産が十分あれば,債務があっても引き受ければよいのですが,財産らしい財産がなく,債務だけが残るケースでは速やかに相続放棄をしなければなりません。
 期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」です。
 通常は被相続人が亡くなったことを知った時から3か月ですが,たとえば先順位の相続人が相続放棄をしたために相続人に繰り上がったような場合には,先順位の相続人が相続放棄したことを知った時から3か月ということになります。
 ときには個人の資産がプラスかマイナスかすぐに判断できない場合もあります。3か月以内に調査が終わりそうもない場合には,家庭裁判所に3か月の熟慮期間を伸長してもらうよう申請する必要があります。


 相続放棄は債務しか残らなかった場合に行うのが一般的ですが,遺留分の放棄は財産と遺言が残された場合に行います。
 被相続人は,遺言で自分の財産を好きなように処分することができますが,各相続人に最低限保証された「遺留分」を侵害することはできません(参照→http://souzoku.astral-law.com/iryubun)。
 ですが,例えば事業を営んでいる人が後継者に全部残したいと考えたり,田畑を大事に耕作してきた人が自分の死後も処分しないで耕作してもらいたいと考えるケースもあるでしょう。
 このような場合に,財産を引き継がない相続人に代わりに渡す現金(遺留分)があればいいですが,現金を準備できないと事業や田畑を処分して分けるしかないということになりかねません。
 そこで,遺留分のある相続人に遺留分を放棄してもらうのです。


 相続放棄は被相続人の生前には行うことができませんが,遺留分の放棄は家庭裁判所の許可があれば被相続人の生前でも行うことができます。
 遺言を書く際,相続人らに対し,「○○には今までにこれだけあげたから,遺言では全部××に譲ることにするよ。自分の死後に揉めないように,○○は今のうちに遺留分の放棄をしてほしい」と説得し,応じてもらえれば死後の相続争いを回避することができます。


 先日ご相談を受けた方が,「息子と娘の仲が悪く,いまから相続争いが目に見えている。いっそ子どもの方が先に死んでくれたらと思うことがある」と話してみえました。
 お気の毒に・・・よほど気がかりで仕方がないのでしょう。自分の死後に家族が争うなど,想像するのもつらいことです。争いにならないよう,できることはしておきたいものです。

2012/12/12

※コンテンツ内で事例をご紹介する場合、作成当時の法律に基づきますので最新の判例と異なる可能性があります

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