代理受領とは,債務者が,債権者に対し,債務者の第三者(「第三債務者」といいます)に対する債権の弁済受領権限を委任することを言います。
つまり,債権者としては債務者に資力がなくとも第三債務者から弁済を受けることができるので,代理受領は債権の担保として機能します。
仙台高裁の事案では,X社が資金繰りの悪いA社に対して売掛金債権を持っていたところ,A社がY市から工事の発注を受けたので,Y市のA社に対する請負代金の支払いについてX社がA社に代わって代理受領することにし,Y市からも同意を得ました。
ところがその後A社は経営破たんしてしまい,工事を継続できなくなったので,Y市は工事請負契約を解除し,契約に定めのあった違約金請求権と,それまでの出来高部分の工事請負代金を相殺するとA社に通告しました。
そこでX社が,「代理受領を承諾しておきながら,工事請負代金を相殺してしまうのは許されない」としてY市を訴えたという事案です。
ここで問題となるのは以下の2点です。
①代理受領を承諾した第三債務者は相殺することができるか(相殺適状にあるか)。
②相殺できるとしても,代理受領できると期待した債権者の信頼を裏切っている点で不法行為に当たらないか。
この点仙台高裁は,
①代理受領を承諾しても,債権が譲渡されるわけではないので相殺は可能である。
②代理受領の承諾を得ても,それは単に支払われるべき弁済が受け取れるという権限にとどまり,第三債務者の権利(相殺する権利)は何ら制約されない。
と判断しました。
つまり,当事者が債権譲渡ではなく,あえて代理受領という形式を選んでいる以上,債権譲渡のような強い効力は認められないということです。
代理受領は,地方公共団体に対する債権などのように債権譲渡の禁止されている債権や,当事者が正式担保を嫌う場合に利用されていますが,それだけに法的な効力は弱いと言えます。債権の保全の必要性が強い場合には,債権譲渡を行ったり,あるいは,相殺しない旨の書面を第三債務者から徴求しておくなどの措置が必要です。
2012/05/08
※コンテンツ内で事例をご紹介する場合、作成当時の法律に基づきますので最新の判例と異なる可能性があります
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