建物賃貸借契約には「契約終了後,物件の明渡を遅滞した場合には,契約終了から明渡完了までの間,賃料相当額の2倍相当の損害金を支払う」という条項(倍額賠償予定条項)がついていることがあります。
このような条項が消費者契約法に違反し無効かどうかについて,適格消費者団体である消費者機構日本と三井ホームエステート㈱との間で判決が言い渡され,有効性が認められました。
判決の内容を要約すると,明渡が契約通り行われなければ賃貸人に多額の損害が生じることは明らかであるし,賃借人にすれば契約通り明渡を行いさえすれば賠償する必要はないのだから,不当に高額でさえなければ,賠償予定条項は,賃借人に心理的圧力をかけて契約通り明渡を行わせるための合理的な規定であって有効であるという判断です。
日々明渡事件を処理している身からするとごくもっともな結論ですが,有効性が明言された点で重要な判決だと思われます。
特に重要と思われる消費者契約法10条後段の該当性について述べた部分を以下に掲載しますので,ご興味のある方はお読みください。
東京地裁H24.7.5判決 消費者契約法12条に基づく差止請求事件
「 イ 消費者契約法10条後段該当性
(ア)賃貸借契約において,賃借物件の明渡が遅滞することになった場合,賃貸人が明渡予定日を
前提に当該物件につき新たな賃貸借契約を締結していた時には,新賃借人に対する引渡債務
の履行が遅滞することにより,賃貸人は,入居の準備が整うまでの期間に係る新賃借人の宿
泊費または代替物件の使用料等の支払を余儀なくされる場合があることが優に想定されると
ころである。さらに,相当期間内に任意の明渡が見込めない場合には,賃貸人は債務名義を
取得するために弁護士費用を含めて相当の費用と時間をかけて訴訟手続等をとる必要があ
り,その後の強制執行手続においても一定の執行費用を要することになるが,これらの費用
をすべて回収できるわけではない。そして,これらの損害の中には本件特別損害賠償条項に
よって填補可能な部分もあるが,その立証責任は賃貸人側にあり,現実の填補を確保するた
めの時間と費用も無視し得ない。
また,賃借人が契約期間中と同程度の経済的負担で賃借物件の使用を継続できるとするこ
とは,一定の要件を満たして契約が終了したにもかかわらず,賃借人を事実上従前と同様の
経済的状況に置くことになり,返還義務の履行を促すことができないことは明らかである。
そうすると,予定される損害賠償額を,契約期間中において毎月支払うこととされていた
賃料その他の付随費用の合計額を超える金額とすることは,賃貸人に生ずる損害の填補とし
ての側面からも,また,契約終了時おける明渡義務の履行を促進する機能としての側面から
も,相当の合理性を有するということができる。
他方,消費者である賃借人にとっても,契約終了に基づく明渡義務という賃貸借契約におけ
る一般的義務を履行すればその適用を免れるのであるから,賃料等の1か月分相当額を上回
る損害金を負担することとなっても直ちに不合理であるともいえない。
以上の諸点にかんがみると,建物賃貸借契約に記載されていた契約終了後の目的物明渡義
務の遅滞に係る損害賠償額の予定条項は,その金額が,上記のような賃貸人に生ずる損害の
填補あるいは明渡義務の履行の促進という観点に照らし不相当に高額であるといった事情が
認められない限り,消費者契約法10条後段には該当しないものと解するのが相当である。
(イ) (省略)本件倍額賠償予定条項における賃料等の2倍の額という賠償額の定めは,賃貸人
に生ずる損害の填補あるいは明渡義務の履行の促進という観点に照らし,不相当に高額であ
るということはできない・・・本件倍額賠償予定条項が消費者契約法10条により無効である
ということはできない。 」
2012/07/31