大家さんの都合で立退きを求められたので立退料をもらった,という話はときどきありますね。
建物の賃貸借契約は,賃借人にとっては生活の基盤にかかわるものですから,借地借家法という法律によって厚く保護されています。
このため大家さんの方からは簡単に明渡を求めることができません。立退きを求めるだけの正当な理由が必要とされ,理由が弱い場合には立退料を提示して補完しなければなりません。
そうなると,近い将来使うかもしれない建物は安易に貸し出すことができず,みすみす空き家のままにしておかなければなりません。
でも,空き家のままにしておいたら建物が傷みますし,期限付きで貸し出すことができれば賃貸人は収入が得られ,賃借人もその間住居を得ることができ,社会的に有益です。
そこで借地借家法では,「定期借家契約」という契約方式が認められています。
通常の建物賃貸借契約は,大家さんからの解約申入れも,更新拒絶も,正当事由がない限りできないとされていますが,定期借家契約では,契約期間が満了すれば契約は更新されず終了します。
たとえば,息子が結婚したら使わせようと思っている空き家があるけど,まだ5年くらいは結婚しないだろうというような場合に,この契約を利用すれば,5年後にはきちんと明渡を求めることができるというわけです。
注意しなければならないのは以下の点です。
①契約書を書面で作成しなければなりません。
②契約期間を定めなければなりません。
③契約期間が1年以上の場合には6か月前までに賃借人に契約終了通知をしなければなりません。(通知が遅れたら,通知した日から6か月後に契約は終了します)
④契約に先立って,定期借家契約という更新のない契約であることを明記した書面(事前書面)を賃借人に渡し,説明しなければなりません。
これらの要件は厳格に判断されますので,注意が必要です。
最高裁H24.9.13は④の要件について次の通り判断しました。
「借地借家法38条2項所定の書面(事前書面)は,賃借人が,当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず,契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。」
つまり,賃借人が契約時に当該契約が定期借家契約であると熟知していたとしても,賃貸人は契約より前に,契約書とは別の事前書面を渡し,更新がされない契約であることを説明しておかなければならないということです。
さらにいえば,書面を渡すだけではなく説明もしなければならないとされていますから,後になってもめないよう,「説明を受けました」という賃借人からの一筆をもらっておくのがベターです。
「定期借地契約」という制度もありますが,これについてはまた後日。
2012/10/02
※コンテンツ内で事例をご紹介する場合、作成当時の法律に基づきますので最新の判例と異なる可能性があります
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