建物賃貸借において、過去に自殺、殺人などがあったという事情は、建物の心理的瑕疵として説明義務の対象となる事実です。
では自然死でも説明義務があるのか?事件から何年経過しても説明しなければならないのか?その後他の住人が借りていたとしても説明しなければならないのか?
こうした説明義務の範囲については、法律に定めがなく、判例上も十分に明らかにされていない状況ですが、現在の裁判例の状況を整理してみたいと思います。
1 説明義務の対象となる事情
心理的瑕疵に該当するかどうかは、一般人であれば嫌悪感を生じ、利用に不便を感じるのが通常かどうかによって判断されます。
事故の態様として、自殺、他殺はもちろんですが、自然死であっても、たとえば腐乱状態であったり、餓死であったりなど、嫌悪感を催す態様であれば瑕疵に該当する可能性があります。
2 説明義務の時的範囲
(1)二次賃借人について
自殺などの事故の事実は、時間の経過によって希薄化し、いずれ住み心地に影響しなくなると考えられています。
裁判例でも、事故直後の新たな賃借人(一次賃借人)については説明義務を認めていますが、事故後に新たな賃借人が入居した後の賃借人(二次賃借人)については説明義務が否定されています。
(2)時間の経過について
事故後に新たな賃借人が入居しなかったとしても、時間の経過につれて事件は風化していきます。
何年経過すれば説明義務がなくなるのか、明確な判例はありませんが、おおむね2年から4年が経過すると、説明義務はなくなると判断されています。
3 説明義務の場所的範囲
(1)賃貸目的部分での事故の場合
例えば居住目的のマンションの一室で自殺があった場合に、その同じ部屋については説明義務があるのが通常でしょう。自殺があった部屋で寝起きするのは通常誰でも嫌悪を感じるものだからです。
ですが、例えば立体駐車場の駐車スペースの賃貸借の場合、あるいは倉庫の賃貸借の場合はどうでしょうか。住居の場合に比べて嫌悪感は低く感じられます。
このように、賃貸契約の目的・場所の性質によっても、説明義務の有無は影響を受けます。
(2)賃貸目的部分以外での事故の場合
同じ建物内であっても、エントランスや屋上など、貸室外での事故であれば、貸室内での事故に比べて嫌悪感は低くなります。
この点、貸室内以外での事故について説明義務を肯定した裁判例はこれまでのところ公表されていません。
しかしながら、たとえば隣室で凶悪な殺人事件があった場合になど、通常誰もが嫌悪感を抱くであろうと思われるケースも想定されます。従って、賃貸目的部分以外での事故の場合にも、説明義務が認められる場合はあると考えられます。
以上のように、説明義務の範囲については様々な要素から複合的に判断されますので、判断に迷われる場合には弁護士へのご相談をお勧めします。
2015/02/26
※コンテンツ内で事例をご紹介する場合、作成当時の法律に基づきますので最新の判例と異なる可能性があります
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