【事例】
A社は設立10年の製造業者である。
業績は悪くないが、小規模の取引先が多く、少額の売掛金の未回収の発生が多い。A社長は社員に売掛金の回収を徹底するよう厳しく命じているが、未回収額が少ないせいか社員の意識は低く、取引先とのなれ合いもあり、なかなか回収が徹底できない。
社員の転職率も高く、A社長にとっては頭の痛い日々である。
【顧問弁護士なし】
A社長には信頼できる社員がおらず、経営に関する悩みを相談できる相手がいませんでした。
同じ時期に独立している友人や経営者仲間はありましたが、負けたくないという気持ちもあり、つい業績が順調であることを吹聴してしまったり、また業種の違う経営者に相談してみたところで具体的なアドバイスが得られそうもありませんでした。
A社長は悩んだ末、売掛金の回収を社員任せにせず、自分で回収に当たるようになりました。
するとどういうわけか、売掛金の未回収率は逆に上がってしまいました。
社員たちは、面倒な回収業務を社長がやってくれると分かると手抜きをするようになり、また百戦錬磨の取引先は、社長が来るまで払おうとしなくなったのです。
A社長は、業務負担が以前よりも重くなったばかりか、社員たちから軽くみられるようになり、A社の転職率も改善せず、むしろ以前よりも質の低い就職希望者しか集まらないようになっていきました。
【顧問弁護士あり】
A社長は、H社の売掛金の未回収額が比較的多額だったので、顧問弁護士に相談してみました。
顧問弁護士と今後の回収作業について相談する中で、A社長は、雑談のつもりで売掛金未回収問題で悩んでいることを顧問弁護士に話しました。
顧問弁護士とはそれまで様々な問題を一緒に処理してきた仲であり、会社の決算書なども見せていましたので、経営者仲間に対するように格好をつける必要もありません。
顧問弁護士はA社長の話をじっくりと聞き、それは結局、社員の意識の低さが問題であること、すなわち社員教育こそが問題解決のカギではないかと意見しました。
それはA社長自身も感じていたことで、A社長は顧問弁護士と社員の意識をどのように高めればいいのか話し合いました。
A社長は、悩みを口に出して話をしてみることで、社員一人一人の性格や、扱い方の要点、取引先との相性など、それぞれの改善点などが次第に見えてくるのを感じました。
また、長い間一人で抱え込んでいた悩みを打ち明けたことで、気持が非常に軽くなるのを感じました。
翌日から、A社長は、それまでの反省を生かして、社員それぞれと話をするように心がけました。社員は、A社長が、それまでのように頭ごなしに命令するのではなく、それぞれの実情や、取引先との関係を踏まえて具体的な売掛金回収のアドバイスをするようになったことを感じ、会社からフォローされているという実感を得るようになりました。
その結果、A社の転職率は大きく改善し、また社内の雰囲気もよくなり、売掛金未回収問題もいつのまにか解消していったのです。
【コメント】
経営者は常に孤独です。
業績が気になっても、社員に対してそんな姿は見せられません。
同業他社の経営者には当然のこと、他業種の経営者に対しても、取引の見込みがあれば弱みを見せることは禁物です。
なんとなく今後の経営が心配だ。不安を感じて夜眠れないときがある。この程度の内部留保で今後大丈夫なのか。社員からの信頼が不足しているように感じる。大口の取引先から切られそうな予感がする。優秀な人材が集まらない。
具体的なトラブルにまでなっていなくても、こうしたあいまいな不安を気兼ねなく打ち明けられる相手がありますか。 顧問弁護士であれば、秘密厳守で打ち明けることができます。
すぐに解決できない問題であったとしても、自分一人で逡巡するより建設的な考えに発展できそうだと思いませんか。