当該事案は,マンションの区分所有者の一人が,マンションの管理組合の役員が修繕積立金を不当に運用したなどと記載したビラを配ったり,付近の電柱に張り付けるなどの行為を繰り返し,またマンションの修繕業者に意味不明の文書を送り付け,工事の辞退を求めて業務を妨害したという事案です。
マンションは多数の人間が共同で利用することから,お互いに迷惑にならないように使用しなければなりません。迷惑行為に対しては,区分所有者全員で,①そのような行為の差止を請求したり,②マンションの使用禁止を請求したり,③迷惑行為者の区分所有権と敷地利用権を競売にかけることができます。
上記事案では,区分所有者が管理組合の役員や補修業者に迷惑行為を行ったとしても,騒音や悪臭のように,建物の管理・使用にかかわる問題ではないので,迷惑を受けた者がそれぞれ個人的に迷惑行為の差止請求や損害賠償請求をすればよいのではないか,区分所有法上の請求を認める必要はないのではないかが問題となりました。
この点最高裁は,「それ(迷惑行為)により管理組合の業務遂行や運営に支障が生じるなどしてマンションの正常な管理または使用が阻害される場合には,「区分所有者の共同の利益に反する行為」にあたる」つまり区分所有法上の差止請求の対象になると判示しました。
迷惑を受けた人個人による請求ではなく,区分所有法上の差止請求が認められるメリットは,差止請求でも効果がない場合に,さらに進んで使用禁止請求や,競売請求ができるという点にあります。
また費用の問題もあります。昨今,マンションの管理組合の役員のなり手がいないという問題が取り上げられていますが,区分所有者の嫌がらせで組合の業務が滞った時に,役員個人が費用を負担して訴訟を起こさなければならないとすれば,問題のある区分所有者がいるマンションでは,管理組合の役員になろうという人はいなくなってしまうでしょう。区分所有法上の請求は,区分所有者全員でなすべきものとされていますので,費用も全員で負担すべきことになります。
2012/04/26