HOME > 不動産管理(不動産関連の方へ) > 修繕義務不履行を理由とする賃借人の家賃支払拒絶について
賃貸人が修繕義務を履行しないことを理由に賃借人が家賃の支払いを拒絶するという紛争は非常に数が多いですが,このような支払拒絶は可能でしょうか。
例えば,上階から漏水して部屋が汚れたのでクリーニングされるまで家賃を支払わない,とか,エアコンが壊れたので修理されるまでの間の家賃は支払わない,などといった事案です。
このような事例について最近東京地裁で複数の裁判例が出ていますので紹介します。
エアコンから水漏れしたことを理由に賃借人が家賃の支払いを全額拒否したので,賃貸人が家賃滞納を理由として契約を解除し建物の明渡を請求したところ,賃借人の家賃の全額支払義務が認められ,賃貸人の請求が認容された事案。
仮にエアコンの水漏れが継続していたとすれば修理をしなかった賃貸人に修繕義務違反があったと認められるが,「その修繕義務の不履行により賃借人の使用,収益に及ぼす障害の程度が一部にとどまる場合には,賃借人は,当然には賃料の支払義務をその一部についても逃れるものではなく,賃料の全額について支払いを拒むことは」できないというべきである。
これを本件についてみると,エアコンが現代の住環境において広く普及した設備であるということはできるものの,現在の我が国の気候や気温の実情に照らせば,エアコンが設置されていない建物において,人が日常生活を送ることが不可能であるとか,著しく困難であるとまでは認めがたいし,他に被告が一般人と比べて特に日常生活上エアコンを必要とすること,およびそのような特別の必要性に基づく使用,収益を行うことを前提として本件契約が締結されたことを認めるに足りる証拠は存在しない。」
賃借人が,襖の汚れ,エアコン・給湯器・インターホンの故障,雨樋の破損,植栽が伸び放題であることなどを理由に家賃の支払いを拒絶したので,賃貸人が指摘箇所の修理等を行ったものの,賃借人が賃料の支払拒否を続けたため,賃貸人が家賃滞納を理由として契約を解除し,建物の明渡を請求したところ,賃借人の家賃全額支払義務が認められ,賃貸人の請求が認容された事案。
「賃貸人は特約のない限り,賃借人に対し,賃貸目的物の使用収益に必要な修繕をする義務を負い,賃貸人が修繕義務の履行を怠り,賃借人が目的物の使用収益を全くすることができなかった場合には,賃借人はその期間の賃料全額の支払いを免れると解されるが,使用収益に支障があるものの,なお継続して使用収益することができる場合には,賃借人は賃料全額の支払いを免れないものというべきである。
そうすると被告が主張するエアコンや給湯器の故障等の諸事情は,本件建物を全面的に使用することができない状態にするものではないし,上記認定事実によれば,被告は,継続的に本件建物に居住していることを認めることができるから,・・・被告は,賃料全額の支払を免れるものではないというべきである。」
以上の裁判例から,賃貸物件が全く使用できない状態となった場合には賃料全額の支払いを拒否することができるが,支障はあるものの,使用収益できる程度であれば賃料全額の支払いをしなければならず,賃料の支払を一部拒否することはできないということができます。
2013/06/06
※コンテンツ内で事例をご紹介する場合、作成当時の法律に基づきますので最新の判例と異なる可能性があります
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