経営者保証に関するガイドラインについて

12月5日に日本商工会議所と全国銀行協会を事務局とする「経営者保証に関するガイドライン研究会」が「経営者保証に関するガイドライン」を発表しました。
中小企業が事業資金の借り入れを行う場合,経営者個人による個人保証を求められるのがこれまで一般的でしたが,その結果,事業不振となっても経営者が個人資産まで失うことを恐れて早期の事業再生をためらい,損害の拡大を招く弊害などが問題視されていたところ,当ガイドラインは経営者による個人保証の慣行を改め,一定の場合には経営者の個人保証を求めないことを定めるものです。
当ガイドラインに法的拘束力はありませんが,金融庁が,全国銀行協会・全国地方銀行協会・第二地方銀行協会・信託協会・全国信用金庫協会・全国信用組合中央協会・商工組合中央金庫・農林中央金庫・日本貸金業協会にそれぞれ積極的な活用を要請しており各金融機関の自主的な遵守が見込まれますので,債権者が金融業者のみの場合には事実上の強制力があると見込まれます。
当ガイドラインのポイントは以下の通りです。

1.保証契約時に経営者保証なしの融資が受けられます

次の条件を将来にわたって充足すると判断された場合には,経営者保証なしの融資を受けられる可能性があります。将来にわたって充足するとまでは判断できない場合にも,経営者保証に代替する融資手段※が受けられる可能性があります。
また将来次の条件を満たした場合には経営者保証の見直しの可能性があります。
※経営者保証の停止条件付・解除条件付保証契約,ABL(在庫・売掛金等の流動資産担保),金利の上乗せ 等


 ①法人と経営者の関係が明確に区分・分離されていること
事業上必要のない法人から経営者への貸し付けなどを行わない
個人の飲食代などを法人の経費に計上しない
法人の事業に必要な資産を個人の所有ではなく法人の所有にする
自宅兼店舗,自家用車兼営業車について法人が適切な賃料を経営者に支払う


 ②財務基盤の強化
経営者個人の資産を債権保全の手段としなくても,法人の資産・収益力で債務の返済が可能と判断しうる財産状況を確保する。
業績が堅調で十分なキャッシュフローを確保しており,内部留保も十分であること
業績不安定であっても,内部留保が潤沢で,業況の下振れリスクを勘案しても借り入れの返済が可能と判断できること
内部留保は潤沢とは言えなくとも,好業績が続いており,今後も借り入れを順調に返済できるだけのキャッシュフローを確保できる可能性が高いこと


 ③経営の透明性確保
財務状況を正確に把握し,適時適切な情報開示等により経営の透明性が確保されること。
年1回の決算報告に加え,定期的に試算表や資金繰り表などを提出して業況を報告する
外部専門家による情報の検証結果と合わせて開示することが望ましい
債権者からの要請があれば経営者個人の資産負債状況の開示・説明を行うことが望ましい

2.保証債務の履行請求が限定的となります

保証人である経営者が早期事業再生を決断し金融機関に申し出た場合,「一定の経済合理性」が認められれば,破産手続における自由財産の範囲を超えて保証人の手元に資産を残すことを認めた上で,保証債務の弁済計画(原則5年以内)が認められます。


これまで会社が破産する場合には,経営者個人にも保証債務がのしかかり,経営者個人も破産するほかありませんでした。
その場合経営者個人の手元に残されるのは,破産法が定める「自由財産」のみとなります。
自由財産は99万円までとされ,自宅,生命保険,預金,自動車等,99万円を除くすべての資産を失うことになります。
すなわち経営者は生活基盤の大半を失い,また破産の事実が信用情報登録機関に登録され再度の借り入れが制限されますので,再チャレンジは非常に困難になります。
そこで当ガイドラインは,債権者に対し,「一定の経済合理性」がある場合には,上記99万円を超えて保証人(経営者個人)の手元に資産を残す私的整理に応じるよう定めるとともに,当ガイドラインに従って債務整理を行った保証人については信用情報登録機関への報告,登録をしないこととしています。


「一定の経済合理性」は次のように判断されます。


①主債務(会社の債務)が再生型手続によって整理される場合
主債務と保証債務の弁済計画案に基づく回収見込額の合計金額>主債務者と保証人が破産した場合の回収見込額の合計金額


②主債務(会社の債務)が清算型手続によって整理される場合
現時点で清算した場合の主債務と保証債務の回収見込額の合計金額>過去の営業成績等を参考に清算手続が遅延した場合の将来時点(最大3年程度)における主債務と保証債務の回収見込額の合計金額


保証人の手元に残される資産は次の範囲①+②+③まで増加が認められます。


①現預金 自由財産99万円+一定期間の生計費
一定期間は,保証人の年齢に応じて雇用保険の給付期間を参考に90日から330日の範囲で設定されます。
生計費の額は,月額33万円(民事執行法施行令で定める標準的世帯の必要性経費)として計算されます。


②華美でない自宅等 
当ガイドラインに基づく保証債務の弁済計画の効力は抵当権者に及びませんので,抵当権が実行される危険は残ります。
ただし,抵当権者である債権者を対象債権者として弁済計画を作成し,抵当権を実行する代わりに,保証人が自宅等の公正な価額に相当する額を抵当権者に分割返済する方法もあります。


③主債務者の事業継続に最低限必要な資産等(主債務が再生型手続で整理される場合)
本社,工場など,主たる債務者(会社)が事業継続するうえで最低限必要な資産を保証人が所有している場合,保証人が主債務者に当該資産を譲渡すれば保証債務の返済原資から除外されます。譲渡の対価を得た場合には①,②を除いて保証債務の返済原資に充てます。


経営者保証を付けない融資の条件は中小企業ではなかなか厳しいですが,債権者からすれば,法人と個人の境界があいまいな状況で経営者保証を付けなければ個人に資産を付け替えられて逃げられてしまいますから当然の条件ですね。
当ガイドラインの文言上は金融機関の裁量に委ねられているように思われる部分もありますし,どれほどの実効性があるのか今後注視していきたいと思います。

2013/12/20

※コンテンツ内で事例をご紹介する場合、作成当時の法律に基づきますので最新の判例と異なる可能性があります

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